名古屋高等裁判所 昭和49年(ラ)54号 決定
抗告(一)の抗告人兼抗告(二)の相手方
(原審相手方、以下原審相手方と略称する)
山田たみ
明治二七年一月三〇日生
同
山田次男
大正一四年七月一〇日生
同
山田夏彦
昭和三年九月一六日生
同
田中春子
昭和六年八月一八日生
右四名代理人
竹下重人
抗告(二)の抗告人兼抗告(一)の相手方
(原審相手方、以下原審相手方と略称する)
山田秋男
昭和五年一一月二八日生
右代理人
安藤久夫
外一名
抗告(一)及び(二)の相手方
(原審申立人、以下原審申立人と略称する)
加藤冬子
昭和一一年七月三〇日生
右代理人
長谷川正明
外一名
主文
一 原審判を次のとおり変更する。
二 被相続人山田真之助の遺産を次のとおり分割する。
(一) 別紙第一の(一)目録記載の不動産は原審申立人加藤冬子の取得とする。
(二) 別紙第一の(二)目録記載の不動産は原審相手方山田秋男の取得とする。
(三) 別紙第一の(三)目録記載の不動産は原審相手方山田夏彦の取得とする。
(四) 別紙第一の(四)目録記載の不動産は原審相手方山田次男の取得とする。
(五) 別紙第二目録記載(1)の有限会社山田運送店の出資持分のうち、二、一五〇口は原審相手方山田次男の取得とし、二、一五〇口は原審相手方山田夏彦の取得とする。
(六) 別紙第二目録記載(2)の有限会社山田運送店に対する債権は全部原審相手方山田たみの取得とする。
(七) 別紙第二目録記載(3)の○○信用金庫に対する債権のうち、①のイないしニの定期預金債権は原審申立人加藤冬子の取得とし、①のホないしトの定期預金債権、②の定期積金債権、③の普通預金債権は原審相手方山田たみの取得とする。
(八) 別紙第二目録記載(4)の電話加入権及び同(5)の車両はいずれも原審相手方山田次男の取得とする。
三 分割調整金として、
(一) 原審相手方山田秋男は原審申立人加藤冬子に対し金七五六万七、三八三円を、
(二) 原審相手方山田秋男は原審相手方山田たみに対し、金二、九四三万四、〇六四円を、
(三) 原審相手方山田次男は原審相手方山田たみに対し金一、八五二万七、一一八円を、
(四) 原審相手方山田夏彦は原審相手方山田たみに対し金一、七八九万四 一一八円を、
それぞれ五等分し、その各額を、本決定確定日よりそれぞれ一年、二年、三年、四年、五年限りの各期限までに、本決定確定日の翌日から右期限まで年五分の割合による金員を付加してそれぞれ支払え。
四 前項の分割調整金の支払を担保するため、
(一) 原審相手方山田秋男は、別紙第一の(二)目録記載の不動産につき、
(1) 原審申立人加藤冬子に対し前項記載の分割調整金七五六万七、三八三円及び年五分の付加金を被担保債権とする抵当権を設定しかつその登記手続、
(2) 原審相手方山田たみに対し前項記載の分割調整金二、九四三万四、〇六四円及び年五分の付加金を被担保債権とする抵当権を設定しかつその登記手続、
(二) 原審相手方山田次男は、別紙第二目録記載(1)の有限会社山田運送店の出資持分二、一五〇口につき、原審相手方山田たみに対し前項記載の分割調整金一、八五二万七、一一八円及び年五分の付加金を被担保債権とする質権を設定し、かつ社員名簿にその旨を記載する手続、
(三) 原審相手方山田夏彦は、別紙第二目録記載(1)有限会社山田運送店の出資持分二、一五〇口につき、原審相手方山田たみに対し前項記載の分割調整金一、七八九万四、一一八円及び年五分の付加金を被担保債権とする質権を設定し、かつ社員名簿にその旨を記載する手続、
をそれぞれせよ。
五 原審相手方山田たみ、同山田次男、同山田夏彦は原審相手方山田秋男に対し別紙第一の(二)目録記載の不動産を遅滞なく明渡せ。
六 原審相手方山田たみ、同山田次男、同山田夏彦は原審申立人加藤冬子に対し別紙第二目録記載(3)の①のイないしニの定期預金債権証書を遅滞なく引渡せ。
七 原審における鑑定費用六〇万円はこれを六分し、原審相手方山田たみにおいてその二を原審申立人加藤冬子、原審相手方山田次男、同山田夏彦、同山田秋男においてそれぞれその一を負担するものとし、当審における鑑定費用二二万円は原審相手方山田秋男において負担するものとする。
理由
第一当事者の申立
原審相手方山田たみ、同山田次男、同山田夏彦、同田中春子の抗告(抗告(一))の趣旨及び理由は別紙(一)のとおりであり、原審相手方山田秋男の抗告(抗告(二))の趣旨及び理由は別紙(二)のとおりである。
第二当裁判所の判断
一相続人及び法定相続分
当裁判所の認定も、原審判理由1項と同じであるから、これを引用する。
二相続財産
(一) 原審判理由2項の(1)に掲記の各書類に、鑑定人近藤義男作成の昭和五一年四月二二日付鑑定書、原審相手方山田秋男代理人加藤坂夫作成の昭和五一年七月一四日付上申書によれば、本件相続財産は別紙第一の(一)ないし(四)目録記載の不動産及び別紙第二目録記載の動産であることが認められる。
(二) 鑑定人近藤義男作成の昭和四八年五月一〇日付鑑定書によれば、別紙第一の(一)ないし(四)目録記載の不動産の相続開始時である昭和四六年八月二一日における各価格は次のとおりである。
同(一)目録記載の不動産
二、九五六万七、〇〇〇円
同(二)目録記載の不動産
七、四六一万九、〇〇〇円
同(三)目録記載の不動産
一七〇万一、〇〇〇円
同(四)目録記載の不動産
一四六万五、〇〇〇円
(三) 右各不動産の分割時における価格としては、同鑑定書中の昭和四八年四月二〇日の価格を採用し、次のとおり認める。
同(一)目録記載の不動産
三、三三六万六、一〇〇円
同(二)目録記載の不動産
八、八二三万七、〇〇〇円
同(三)目録記載の不動産
一〇二万〇、〇〇〇円
同(四)目録記載の不動産
七三万三、〇〇〇円
(四) 別紙第二目録記載(1)の有限会社山田運送店の出資持分の価格については、当裁判所の認定も、原審判理由1項の(4)に記載と同じであるから、これを引用する。
(五) 別紙第二目録記載(4)の電話加入権の価格、同(5)の車両の価格、同(2)及び(3)のその他の動産(金銭債権)については、当裁判所の認定も、原審判理由2項の(5)ないし(7)に記載と同じであるから、これを引用する。
(六) 以上により、相続財産の総額を求めると、相続開始時において二億七、五二八万九、七九七円、分割時におい三億一、二四一万二、〇九七円となる。
三特別受益
当裁判判所の認定も、原審判理由3項と同じであるから、これを引用する。
四具体的相続分
相続開始時における本件相続財産の価格二億七、五二八万九、七九七円に前項の各特別受益額七五五万四、四〇〇円を加えると二億八、二八四万四、一九七円となり、これがいわゆるみなし相続財産である。
この金額を各相続人の法定相続分に従つて按分したうえ、原審申立人加藤冬子及び原審相手方山田秋男について按分額から各自の特別受益額を控除すると、次のような具体的相続分が得られる。
① 原審申立人加藤冬子
四、一五七万九、五〇〇円
② 原審相手方山田たみ
九、四二八万一、三九九円
③ 原審相手方山田次男
四、七一四万〇、七〇〇円
④ 原審相手方山田夏彦
四、七一四万〇、七〇〇円
⑤ 原審相手方山田秋男
四、五一四万七、五〇〇円
五現実の遺産の分配額
現実の遺産の分配額は、先に求めた分割時における遺産総額三億一、二四一万二、〇九七円をを前記具体的相続分の割合で按分した額であり、計算すると次のようになる(計算上生ずる端数金額一円は、原審相手方山田たみに帰属させる。)。
① 原審申立人加藤冬子
四、七一八万六、四一五円
② 原審相手方山田たみ
一億〇、六九九万五、〇六五円
③ 原審相手方山田次男
五、三四九万七、五三二円
④ 原審相手方山田夏彦
五、三四九万七、五三二円
⑤ 原審相手方山田秋男
五、一二三万五、五五三円
六分割の方法
次に前項の現実の分配額に従つて遺産に属する個々の物または権利を各相続人に配分することになるが、諸般の事情を考慮すると、当裁判所も、基本的には原審判の分割方法によるのが相当であると考える。即ち、遺産のうち最も大きな部分を占める有限会社山田運送店の出資持分は、同会社の経営を担当する原審相手方山田次男及びこれと協力的関係にある原審相手方山田夏彦に取得させるのが適当であること、有限会社山田運送店所有地上にある建物、同会社の事業と関連のある利用がなされている建物、電話加入権、車両及び同会社に対する債権も同様に右二名及び原審相手方山田たみのいずれかに取得させるのが適当であること、別紙第一の(二)目録記載の(2)ないし(15)及び(A)の建物はすべて同目録記載(1)の土地一筆の上に存在するところ、建物と敷地を別人に帰属させることは適当でなく、また、土地を分筆することは、分筆後の土地の価格にはほとんど変化を生ぜしめないとしても、通行権など新たな相隣関係上の問題を発生させ、これがまた当事者間に紛争をもたらす危惧を内包しているから適当ではなく、結局、同目録記載の物件は一括してその帰属を定めるのが適当あると考える。なお、建物所有権を取得する者は、その建物につき被相続人が有した建物賃貸人たる地位をも取得する。以上によつて次のとおり分割する。
不動産については、別紙第一の(一)目録記載の物件は原審申立人加藤冬子、別紙第一の(二)目録記載の物件は原審相手方山田秋男、別紙第一の(三)目録記載の物件は原審相手方山田夏彦別紙第一の(四)目録記載の物件は原審相手方山田次男の各取得とする。
有限会社山田運送店の出資持分四、三〇〇口のうち、二、一五〇口は原審相手方山田次男、二、一五〇口は原審相手方山田夏彦の各取得とする。
有限会社山田運送店に対する債権はすべて原審相手方山田たみの取得とする。
○○信用金庫に対する債権のうち、別紙第二目録記載(3)の①のイないしニの定期預金債権は原審申立人加藤冬子、同ホないしトの定期預金債権、②の定期預金債権及び③の普通預金債権は原審相手方山田たみの各取得とする。
別紙第二目録記載(4)の電話加入権及び同(5)の車両は原審相手方山田次男の各取得とする。
七分割調整金
前項の方法によつて遺産を配分すると、先に算出した現実の遺産の分配額との間に別紙調整金表のとおり過不足が生ずるので、この過不足は相続人間で次のとおり債務を負担する方法によつて調整する。
(1) 原審相手方山田秋男は原審申立人加藤冬子に対し七五六万七、三八三円の債務を負担する。
(2) 原審相手方山田秋男は原審相手方山田たみに対し二、九四三万四、〇六四円の債務を負担する。
(3) 原審相手方山田次男は原審相手方山田たみに対し一、八五二万七、一一八円の債務を負担する。
(4) 原審相手方山田夏彦は原審相手方山田たみに対し一、七八九万四、一一八円の債務を負担する。
八分割調整金の支払方法及び分割遺産の占有移転義務等
(一) 前項の分割調整金については、分割払の利便を与えることとし、前項の各分割調整金をそれぞれ五等分し、その各額を本決定確定日より一年、二年、三年、四年、五年限りの各期限までに、本決定確定日の翌日から右各期限まで年五分の割合による利息金を付加してそれぞれ支払うものとする。
そして、右支払を担保するため、①原審相手方山田秋男は、別紙第一の(二)目録記載の不動産につき、原審申立人加藤冬子に対し前項の分割調整金七五六万七、三八三円及び年五分の付加金を被担保債権とする抵当権を設定し、かつその登記手続、原審相手方山田たみに対し前項の分割調整金二、九四三万四、〇六四円及び年五分の付加金を被担保債権とする抵当権を設定し、かつその登記手続をそれぞれなすものとし、②原審相手方山田次男は、別紙第二目録記載(1)の有限会社山田運送店の出資持分二、一五〇口につき、原審相手方山田たみに対し前項の分割調整金一、八五二万七、一一八円及び年五分の付加金を被担保債権とする質権を設定し、かつ社員名簿にその旨を記載する手続をなすものとし、③原審相手方山田夏彦は、別紙別紙第二目録記載(1)の有限会社山田運送店の出資持分二、一五〇口につき、原審相手方山田たみに対し前項の分割調整金一、七八九万四、一一八円及び年五分の付加金を被担保債権とする質権を設定し、かつ社員名簿にその旨を記載する手続をなすものとする。
(二) 別紙第一の(二)目録記載の不動産は原審相手方山田たみ、同山田次男、同山田夏彦が占有管理しているので、同人らにおいてこれを遅滞なく原審相手方山田秋男に明渡すものとする。
別紙第二目録記載(3)の①のイないしニの定期債権証書原審相手方山田たみ、同山田次男、同田夏彦が占有管理しているので、同人らにおいてこれを遅滞なく原審申立人加藤冬子に引渡すものとする。
九遺産から生じた収益及び遺産管理費用について
この処理については、当裁判所の判断も、原審判理由8項と同じであるから、これを引用する。
一〇鑑定費用
原審における鑑定費用六〇万円は相続権を有する当事者において法定相続分に応じて分担するのが相当であり、当審における鑑定費用二二万円は原審相手方山田秋男において負担するのが相当である。
一一以上の次第でるるから、主文のとおり決定する。
(植村秀三 西川豊長 寺本栄一)
別紙(一)、(二)、第一の(一)〜(四)目録、第二〜第四目録、調整金表〈省略〉